【フルパッシブ矯正症例】10代 男性「上の歯が前に出ている」上顎の抜歯を伴うワイヤー矯正

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 治療内容 | 上顎の抜歯を伴うワイヤー矯正 |
| 年齢 | 10代 |
| 性別 | 男性 |
| 期間 | 1年4か月 |
| 費用(税込) | 971,300円 |
| リスク・副作用 | ・矯正装置の装着後に、痛みや違和感が生じることがあります。 ・装置の周囲に汚れが残ると、むし歯や歯周病のリスクが高まる場合があります。 ・歯の移動に伴い、歯根吸収や歯肉退縮が生じる場合があります。 ・アンカースクリューの脱落や、埋入部周辺に痛み・腫れ・炎症が生じる場合があります。 ・ディスキング後に、知覚過敏などが生じる場合があります。 ・治療後に保定装置を適切に使用しない場合、歯並びが後戻りすることがあります。 |
▼目次
1. 患者さんのご紹介(主訴・お悩み)
ご自宅が近いということで当院にご来院された10代の男性の患者さんです。主訴として「上の歯が前に出ている」ことにお悩みでした。
上の前歯が突出している状態、いわゆる出っ歯は、見た目に関するコンプレックスにつながり、精神的な負担となることがあります。また、お口が閉じにくくなることで口腔内が乾燥し、唾液の自浄作用が低下するため、むし歯や歯周病のリスクを高める要因にもなります。
2. ご来院時の状態と診断
ご来院時に検査を行ったところ、骨格的な上顎前突(上顎が前に出ている状態)と、上の前歯が大きく前に傾斜している状態が確認されました。お顔立ちの分析でも、横顔のラインにおいて口元が前に出ていることや、口唇閉鎖不全(お口を自然に閉じることが難しい状態)が認められました。
また、下の左右側切歯(2番目の歯)が生まれつき欠損している『先天性欠損』という状態であり、下の左右第二小臼歯(5番目の歯)は短根(歯の根が短い)傾向が認められました。下の歯が2本足りないため、上下の歯の数に不調和が生じていました。さらに、奥歯や犬歯の噛み合わせの前後関係にズレが生じていることも確認されました。
これらの多角的な検査結果から、「先天性欠損を伴う上顎前突」と診断し、治療計画を立案いたしました。

本来存在するはずの永久歯が、生まれつき顎の骨の中に存在しない状態のことです。歯の数が足りないため、歯列に隙間ができたり、上下の噛み合わせのバランスが崩れたりする原因となることがあります。
3. 治療の流れ
①抜歯・むし歯の治療

▲装置装着時
矯正装置を装着する前に、複数箇所にみられたむし歯の治療と、上顎左右の小臼歯を1本ずつ、計2本抜歯しました。 当院では矯正治療に加えて一般的な歯科治療にも対応しているため、むし歯の治療から矯正治療まで院内で進めました。
②犬歯の牽引と歯並びの調整

▲装置装着2か月後
治療の初期から、上顎の左右に設置したアンカースクリューを固定源として犬歯を引っ張りながら、歯並びを整えるレベリングを進めました。牽引時に上顎の奥歯が前方へ移動するのを防ぐ目的で、ナンスのホールディングアーチという装置を装着しました。
③右側犬歯の牽引終了

▲装置装着4か月後
治療開始から4か月で、右側の犬歯の牽引が終了しました。本症例では、治療の早い段階から歯列の変化が認められ、患者さんにも治療経過を確認していただきながら治療を進めました。
④噛み合わせの調整

▲装置装着6か月後
その後、左側の犬歯についても牽引を進め、左右の犬歯の牽引が終了した後は、上顎が前方に出ている骨格的な状態と成長期であることを考慮し、早い段階からⅡ級エラスティックと呼ばれる矯正用のゴムを使用しました。上下の歯にゴムをかけて力を加え、適切な噛み合わせを目指しました。
⑤前歯の噛み合わせを調整

▲装置装着8か月後
前歯の噛み合わせが深く、歯の傾きについてもさらなる調整が必要な状態でした。そのため、T21のサブスロットキャップを用いたWワイヤー治療を行い、前歯の噛み合わせや歯の傾きの改善を図りました。
⑥上顎前歯の隙間を閉鎖

▲装置装着10か月後
上顎では、ループ状に加工したワイヤーを利用するループメカニクスへ変更しました。ワイヤーから歯に力を加え、前歯部分に残っている隙間を閉じることを目的として治療を進めました。
⑦上下の歯の大きさを調整

▲装置装着1年0か月後
下顎では左右の側切歯が先天的に欠損している一方、上顎では左右の小臼歯を抜歯しており、上下で歯の本数や歯の横幅のバランスに違いがありました。そのため、下顎のディスキングを行い、上下の歯の大きさのバランスを整えていきました。
⑧最終調整

▲装置装着1年3か月後
上顎では、抜歯によって生じていた隙間の閉鎖が終了しました。あわせて奥歯の噛み合わせについても確認しながら、上下の歯が適切に噛み合う状態を目指して調整しました。
矯正治療専用の小さなチタン製のネジのことです。顎の骨に埋め込み、固定源として利用することで、治療計画に応じた歯の移動を行う際に用いられます。

高さや位置がそろっていない歯を、矯正用のワイヤーなどを使って徐々に整えていく治療工程です。
ナンスのホールディングアーチとは、主に上顎の奥歯が前方へ移動するのを抑え、歯が生えるためのスペースを維持する目的で使用される固定式の装置です。

歯の側面をわずかに削り、歯と歯の間に隙間を作る処置のことです。歯を抜かずにスペースを作りたい場合や、上下の歯の大きさのバランスを整えたい場合に行われます。
4. 治療のポイント
①フルパッシブ矯正を用いた歯の移動
治療初期からアンカースクリューを用いて犬歯を後ろへ引っ張りながら、歯並びを整えるレベリングを行いました。本症例ではフルパッシブ矯正という手法を採用しています。フルパッシブ矯正とは、ワイヤーと装置の間の摩擦を抑えながら歯を移動させる仕組みです。
治療経過を確認しながら歯の移動を進め、上の前歯の歯並びの乱れにも変化が認められました。 本症例では、治療開始から4か月の時点で右側犬歯の移動が完了しました。
②早期の顎間ゴムの使用
骨格的な上顎前突があり、かつ成長期の患者さんであったため、早い段階から上の歯と下の歯にまたがってゴムをかける処置を行いました。これにより、成長を考慮しながら噛み合わせを整えることを目指しました。
③ループメカニクスによるスペース閉鎖
上の前歯をさらに後ろへ下げるため、ループメカニクスというワイヤーの屈曲を利用した方法に変更し、抜歯してできたスペースを閉鎖しました。
④ディスキングによる上下のバランス調整
本症例は、下顎では先天性欠損、上顎では治療上の抜歯によって、それぞれ歯が2本少ない状態でした。このままでは上下の歯の幅の合計に差が生じてしまうため、必要な範囲で下の歯のディスキングを行い、噛み合わせを整えました。
5. 治療後・予後

治療終了後、患者さんの主訴であった「上の歯が前に出ている」という状態に改善が認められました。また、Eライン(鼻の先と顎の先を結んだ線)を基準とした口元の突出度にも変化が認められ、お口を自然に閉じやすくなりました。
本症例はフルパッシブ矯正で、治療期間は1年4か月でした。 治療期間には個人差がありますが、本症例では成長期であったことなども考慮しながら、歯の状態を確認して治療を進めました。
事前の検査では、歯の根が短い傾向が認められていました。そのため、治療中は歯の根が短くなる「歯根吸収」のリスクを考慮し、歯の状態を確認しながら矯正力を調整しました。治療後の検査では、明らかな歯根吸収の進行は認められませんでした。
もともと上顎前突が認められていたため、治療後は後戻りに注意しながら経過を確認していくことが大切です。治療後の噛み合わせを維持するため、引き続き保定装置(リテーナー)の装着状況や噛み合わせの変化を確認しながら、経過を観察してまいります。
当院では、事前に検査・診断を行い、一人ひとりのお口の状態に応じて、矯正治療の計画を立てています。また、一般歯科治療にも対応しており、むし歯の処置から矯正治療後のメンテナンスまで院内で対応できる場合があります。歯並びや噛み合わせでお悩みの方は、余語歯科 矯正歯科へご相談ください。
監修 余語歯科 矯正歯科 院長 余語良章
2001年 千種小学校 卒
2004年 今池中学校 卒
2007年 東海高等学校 卒
2013年 東京医科歯科大学歯学部 卒
2014年 愛知学院大学歯学部附属病院研修医 修了
2014年 東京医科歯科大学部分床義歯補綴学分野 入局
2014年 高円寺オズ歯科室 勤務 補綴、歯周病を中心に一般歯科全般を学ぶ
2016年 クローヴァ歯科クリニック 勤務 小児歯科認定専門医のもと小児治療を学ぶ
2017年 アップル歯列矯正歯科 勤務 舌側矯正認定医のもと舌側矯正を中心に矯正を学ぶ
2019年 田村矯正歯科 常勤 矯正器具開発なども行う臨床指導医のもと矯正について詳細に学ぶ
2022年1月 余語歯科 勤務
2023年11月 余語歯科 矯正歯科 移転開業、院長就任